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モンゴル

モンゴルの自然環境

  モンゴル国は北東アジア内陸にある国で、北はロシア、南は中国と接しています。モンゴル北部はシベリアに続くタイガ林が広がっていて、南部はいわゆるゴビ 砂漠の広がる地域となっており、強い気候傾度が南北方向に存在しています。一方で中央部~西部にはハンガイ山脈を中心とする高山帯があり、頂部はツンドラ 気候に分類されています。
このようにモンゴル国では多種多様な環境が存在しており、またそれらが隣り合うために、複雑な生態系が成立しています。

 
森林草原
 
 
半砂漠草原


遊牧民の生活

  モンゴル国では人口の約40%が遊牧民であり(National Statistical Office of Mongolia, 2007)、草原から得られる自然資源に依存しているため、草原生態系を持続的に利用していくことは、人々の安定した生活を確保する上でも最重要な課題の 一つになっています。遊牧民はゲルと呼ばれる移動式住居にくらしています。家畜は羊・ヤギを主体とし、北部は牛が、南部はラクダを一緒に飼うことが多くな ります。遊牧様式も環境の違いを反映して多様であり、湿潤地域では年間を通して数kmしか動きませんが、降水の変動の激しい南部では数百km規模で移動す ることも珍しくありません。このような移動様式の違いは、生態系へのインパクトの違いにも反映します。そのため、持続的生態-遊牧社会系を築くための生態 系管理の手法に、こういった環境の違いを取り入れていくことが求められています。

 

モンゴルの移動式住居「ゲル」
 
放牧中の家畜


モンゴル農業大学生態系研究センターとの協力


  海外におけるフィールド研究には、信頼のおけるカウンターパートが欠かせません。本GCOEでは、COEプログラム「生物多様性・生態系再生研究拠点(代 表:東京大学鷲谷いづみ教授、2003-2008)http://www.u-tokyo.ac.jp/coe/list12_j.html」によって築 かれてきた研究協力体制を引き継ぎ、モンゴル国立農業大学生態系研究センターと共同研究を行っています。生態系研究センターはモンゴルの放牧地管理・放牧 地生態系再生研究についての代表的な研究機関であり、学生・教員の交流から、合同フィールド調査にいたるまで、きわめて有意義な学術交流を行っています。

サイトの紹介

 本GCOEでは、モンゴルの多様な環境とそれに対応するあるべき生態系管理の手法を考究するために、気候傾度に沿って重点調査サイトを設置しています。現在は、主に下記の3つのサイトで研究活動をしています。



1. モンゴル国中央県アルガラント郡 フスタイ国立公園周辺

 このサイトは首都ウランバートル近郊にあるフスタイ国立公園周辺を対象にしています。降水量は年平均250mm前後で、典型草原(ステップ)を中心に、山地頂部には白樺林の点在する森林ステップが広がっています。
  モンゴルでは1990年初頭の社会主義体制の崩壊に伴なうインフラの崩壊によって、都市や都市に続く主要幹線道路に遊牧民が集中し、土地荒廃(砂漠化)を 引き起こしています。本サイトはそのような土地荒廃が起きている典型的な立地にあります。さらに、かつては首都ウランバートルで消費される穀物の生産地帯 だったため、現在では耕作放棄地が広く広がり、社会主義が終わって20年たった今でも多くの場所が荒廃したまま放牧に利用できない形で残されています。
 このように強い土地荒廃が見られる一方で、フスタイ国立公園は放牧が禁止されているため、強い土地荒廃の傾度が数十kmの範囲で見られます。撹乱が草原生態系へもたらす影響を研究することに適しているサイトとなっています。
 一方でフスタイ国立公園は野生動植物の保護地であり、野生の馬タヒをはじめとする多くの野生動物が生息しており、モンゴルにおける野生動物研究のメッカでもあります。

 
状態の良い草原
 
荒廃草原
 
野生の馬 タヒ


2. モンゴル国中央ゴビ県サインツァガーン郡 マンダルゴビ周辺

  このサイトは首都ウランバートルから南に200km以上離れた中央ゴビ県の県都マンダルゴビの周辺に位置し、典型草原(ステップ)と半砂漠草原(ゴビス テップ)の境界にあります。降水量は年平均170mm前後ですが、2000年以降、降水量は減少の一途をたどっており、近年は頻繁に干ばつの被害を受けて います。
 干ばつや夏の遅い雨のために、近年は草原・半砂漠草原の典型的な牧草であるStipa spp.があまり成長せず、ネギの仲間であるAllium spp.が繁茂します。Allium spp.は栄養価の高い草本ですが、家畜が食べ過ぎると体調を壊すために、その繁茂は家畜の生存にとって問題となります。マンダルゴビ周辺は県都であるた めに家畜密度の高い地域であり、干ばつの影響も重なり、かつて行われてきた季節的な放牧地利用・休閑のサイクルが崩壊してきています。これは餌の不足によ る家畜への被害だけでなく、草原の持続性も脅かします。このような変わりゆく外部環境、干ばつと重放牧圧が重なった複合的な撹乱に対する、持続的な放牧地 管理のあり方を研究することが本サイトでの急務となっています。
 本サイトには、北部のステップ地域において、2004年に長期回復試験サイトが設置されました。極めて強い放牧圧を受ける越冬地周辺から、距離を変えて複数の禁牧柵を設置し、異なる土地荒廃レベルからの回復プロセスを継続的にモニタリングしています。

 
平時の半砂漠草原
 
干ばつ時のほぼ同じ場所の状態
 
回復試験サイトのデザイン


3. モンゴル国南ゴビ県ブルガン郡 ハフツガイトバグセンター周辺

  このサイトは中国に接している南ゴビ県の、ゴビアルタイ山脈の北麓に位置しています。年平均降水量は約120mmの、乾燥した場所です。乾燥地では一般 に、標高が高い方が気温が低くなり湿潤な環境になります。そのため、ゴビアルタイ山脈に接する低地帯では乾燥が強く、塩性潅木の広がる砂漠地帯(ゴビ砂 漠)となっています。さらにこの場所は、中国ホンシャンダク砂地から続く一連の砂質土壌の地域であり、砂の移動が激しく、黄砂の主たる供給源の一つとされ ています。現地遊牧民の生活および生態系を保全しつつ、黄砂の飛砂量を減らすことは、「黄砂の発生源対策」として近年重要な研究トピックとなっており、日 中韓環境大臣会合などでも取り上げられています。逆に山頂近くになると湿潤になり、半砂漠草原が広がります。マンダルゴビ周辺に比べ人口が少ないため、比 較的撹乱が少なく、山脈による安定した水分供給も伴い、典型的な半砂漠草原を見ることができます。遊牧民は季節ごとに大きく場所を変えつつ規則的に山を昇 り降りして乏しい草原の資源を最大限活用しています。このように季節ごとに気候帯をまたぐように山を昇り降りする遊牧パターンは、例えば西部のホブド県 や、ハンガイ山脈南麓など、モンゴル各地にみられます。遊牧システムの研究は一般にある気候帯に限った中で理論構築されますが、このような気候帯をまたぐ 移動については知見が乏しく、研究課題の一つとなっています。
 本サイトには、山麓の半砂漠草原地域において、マンダルゴビ周辺と同じような長期回復試験サイトが設置されています。同様に、異なる土地荒廃レベルからの回復過程をモニタリングしています。

ゴビアルタイ山脈の景観
ゴビ砂漠の景観
風成砂の活発な移動の様子


引用文献
National Statistical Office of Mongolia. 2007. Mongolian Statistical Yearbook 2006. National Statistical Office of Mongolia, Ulanbator, 401pp.